最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)722号 判決
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〔要旨〕生命権侵害の不法行為により、イ得べかりし収入を喪失した金額、ロ慰藉料、ハ葬式費用、ニ機械破損修理費の各損害賠償請求権が生じたが、被害者にも過失があつた場合に、イの損害に対してのみ過失相殺をしたことを以て違法とすることはできない。
〔説明〕上告会社所有の大型貨物自動車が、その運転手の過失により、被上告会社所有の自家用オート三輪車に衝突してこれを顛覆せしめたため、その荷台に上乗りしていた被上告会社の店員甲は頭蓋底骨折によりまもなく死亡した。右事故により、原審は、
イ、甲の得べかりし収入の喪失により 九二一、二四九円
ロ、慰藉料として甲の養父母乙、丙につき各五〇、〇〇〇円、実母丁につき一〇〇、〇〇〇円
ハ、葬式費用等につき二六、三〇〇円
ニ、機械破損修理費として一五、〇〇〇円
の各損害の発生したこと、及び被害者たる甲に過失のあつたことを認定した上、イについてのみ過失相殺をなして、その額を三〇〇、〇〇〇円(乙、丙、丁各一〇〇、〇〇〇円)とした。その結果、被上告人甲はイロハの合計一七六、三〇〇円、被上告人乙はイロの合計一五〇、〇〇〇円、被上告人丙はイロの合計二〇〇、〇〇〇円、被上告会社はこの一五、〇〇〇円につき、それぞれ損害賠償の請求が認められたわけである。これに対して上告論旨は、イについてのみ過失相殺をなし、ロ、ハ、ニについてこれをしなかつたことを非難し、別段の事情のないのに、一箇の原因によつて生じた損害の内一つについては過失相殺をし、他の一つについてはこれをしないという勝手気儘は許されないと主張する。
判例は、被害者に過失を認めても損害額の算定につき斟酌しなければならぬものではなく(明治三九・一二・三、刑録一三一五頁、大正九・一一・二六、民録一九一一頁)、又過失相殺の主張がなくても職権を以て斟酌するを妨げず(昭和三・八・一、民集七巻六四八頁)、なお被害者ニ過失アリト認ムベキ事情ノ存スルコト判文上明ナル場合ニ於テ、此ノ点ニ付賠償額ニ別段ノ影響ヲ及ボサズト認メタル趣旨ノ観ルベキモノナキトキハ、仮令賠償義務者ヨリ此ノ点ニ付何等ノ主張ナシトスルモ、該判決ハ審理不尽ノ違法アルモノトス(同判決)としている。この趣旨からすれば、損害金額のうちどの程度につき相殺を認めるか、数種の損害が生じているとき、どの部分につき相殺を認めるかは、裁判所の職権に委されているということになるであろう。
この点について実務上の取扱例を見ると、a、前記イとニに該当する損害の総額につき相殺を認めたもの(大正九・七・一七、東控、昭和八・七・一七、東控)、b、イロこの総額につき相殺を認めたもの(昭和一〇・九・二一、東控、大正一一・一〇・三、東地)があり、c、イについて相殺を認め、ロについてはこれを認めなかつたもの(昭和二六・五・二六東地、下裁判例集二卷六九九頁、昭和二六・一〇・二七、東高、同上一二五六頁)がある。慰藉料の数額は、諸般の事情を斟酌して裁判所が自由に量定すべきものであるから(昭和七・七・八、民集一一卷一五二五頁、大正九・五・二〇、民録七一〇頁等)、被害者の過失は当然に斟酌されている筈であり、従つてこれにつき更に過失相殺をすることは(前記b)誤りであつて、慰藉料に関する限りはcを正当とする。
本件について云えば、ロの慰藉料につき過失相殺をしなかつたことは正当であり、ハニについては過失相殺をしてもしなくてもいいと考えるから、原審の判断及びこれを認容した本判決は、いずれも正当であると思う。因に甲は被上告会社の被用者であるから、この損害につき過失相殺をなすことは可能である(大正九・六・一五・民録八八四頁)。
(三淵調査官)